仙台高等裁判所 平成2年(ネ)178号 判決 1993年3月29日
控訴人
株式会社相徳産業
右代表者代表取締役
徳江定光
右訴訟代理人弁護士
佐藤欣哉
繩田政幸
被控訴人
山形県
右代表者知事
高橋和雄
右訴訟代理人弁護士
設楽作巳
右指定代理人
高原幹明
外四名
主文
一1 原判決中、控訴人の所有権確認請求を棄却した部分を取り消す。
2 別紙物件目録記載の土地につき、控訴人が所有権を有することを確認する。
3 控訴人のその余の控訴を棄却する。
二 控訴人の当審で拡張した請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、第一・二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。
事実
一 控訴の申立て
1 原判決を取り消す。
2 主文一2と同じ。
3 被控訴人は、別紙物件目録記載の土地を県道用地として使用してはならない。
二、三 <省略>
理由
一次のほかは、原判決理由説示のとおりである。
1ないし4<省略>
5 同九行目冒頭から八枚目表一行目末尾までを次のとおり改める。
「五 再々抗弁1(背信的悪意者の抗弁)について
控訴人が背信的悪意者であるとは、認められない。
すなわち、前記請求原因3の事実並びに<書証番号略>、証人鬼島金二郎、同三宅慶一及び同伊藤正悦の各証言、控訴会社代表者本人尋問の結果によると、次の事実が認められる。
1 昭和五九年一〇月二五日、有限会社日新観光(代表取締役田中光明、以下「日新観光」という。)は、控訴人ら連帯保証のもとに、株式会社住宅総合センター(以下「住宅総合センター」という。)からホテル建築資金を借り受けることとし、光明が所有する分筆前の山形市城南町二丁目一六番六〇、一六番二八二の土地ほか数筆の土地などに、原因・昭和五九年一〇月二五日分割貸付契約昭和五九年一一月二八日設定、抵当権者・住宅総合センター、債務者・日新観光、債権額・二億五〇〇〇万円等を内容とする昭和五九年一一月二八日受付の抵当権設定登記及び原因・昭和五九年一〇月二五日保証契約による求償債権昭和六〇年二月八日設定、抵当権者・控訴人、債務者・日新観光、債権額・二億五〇〇〇万円等を内容とする昭和六〇年二月八日受付の抵当権設定登記を経由した。
2 昭和六〇年七月二〇日、日新観光は、住宅総合センターに対し、元本合計二億五〇〇〇万円の債務を負担していることを承認するとともに、分割弁済を約し、光明、控訴人ほか二名は、これを連帯保証した。
3 光明は、昭和六〇年一〇月一四日付け書面で、山形県知事に対し、分筆前の一六番六〇及び一六番二八二の土地の一部が、登記簿上も公図上も、分筆、買収されないまま県道として使用されていることが判明したので、調査して欲しい旨依頼した。これに対し、山形県建設事務所長は、昭和六一年三月一八日付け書面で、調査依頼のあった土地は、昭和二九年ないし三〇年に被控訴人が買収し、道路拡幅工事を完了し、以来今日まで公衆用道路として使用しているが、何らかの理由により分筆登記及び所有権移転登記が未了になっているものと思料される旨回答した。その後、両者で話し合いが行われたが、光明は、昭和六一年五月三一日付け書面で、被控訴人に対し、長期間固定資産税を納税してきた者としては、無償提供はできない旨通知したりした。
4 昭和六一年二月一四日、控訴人及び住宅総合センターは、光明に対し、分筆前の一六番六〇及び一六番二八二の土地のうち、現況が右県道の歩道となっている部分を分筆のうえ、被控訴人に譲渡するについて、住宅総合センターに坪当たり五二万二二四八円(不動産鑑定士の鑑定評価額)を支払った場合には、その分筆する歩道部分について抵当権の設定登記を抹消することを約束した。したがって、遅くともこの時点においては、控訴人は、本件土地部分が道路であることを認識していた。
5 昭和六一年六月三日、前記一六番六〇の土地(光明所有名義)が別紙物件目録一の土地と一六番三九九の土地に、前記一六番二八二の土地(光明所有名義)が同目録二の土地と一六番三九八の土地に分筆され、昭和六一年八月六日、光明は、右土地のうち、一六番三九八及び一六番三九九の土地を第三者に売り渡し、その代金約二〇〇〇万円は、日新観光の住宅総合センターに対する借入債務の支払いに引き当てられて、右売り渡した各土地に対する住宅総合センター、控訴人を債権者・抵当権者とする前記各抵当権は抹消された。
6 光明らは、控訴人に対し、担保に入っている残物件はすべて控訴人に譲るから、債務を肩代わりして欲しい旨依頼していたものであるが、昭和六一年一一月二七日、光明は、浅野仁志(控訴人の従業員であり、実際の当事者は控訴人)との間で、控訴人が日新観光のために住宅総合センターに前記保証債務を履行として支払った分を含め総合計二九五八万二〇〇〇円に及ぶ日新観光の控訴人に対する債務につき、光明が負担する連帯保証債務の履行に代えて、浅野(実質は控訴人)に対し、前記担保物件たる土地(本件土地は、<書証番号略>には記載されていないが、記載漏れである。)の所有権を移転しかつ引き渡すことを約し(請求原因2参照)、昭和六一年一二月一九日、本件土地を含む右担保土地について、右代物弁済を原因とする控訴人に対する所有権移転登記を経由した(再抗弁1参照)。なお、控訴人らの前記各抵当権設定登記はそのままである。
7 控訴人は、右の光明らの依頼の趣旨に従い、右代物弁済を受けた後も、連帯保証人として、住宅総合センターに対し、支払いを継続し、平成元年四月五日当時の前記二億五〇〇〇万円の借入債務に対する支払総額は、前記5の土地売却代金約二〇〇〇万円を除くと約三〇〇〇万円であった。
8 控訴人は、本件土地取得後、被控訴人の本件土地についての前記3の見解と対応を知悉したうえで、全国同和連盟仙台支部長を名乗る斉藤友裕に対し、被控訴人との折衝を依頼した(当時、控訴人は、斉藤が右団体に所属することを知らなかった。)。斉藤は、昭和六二年二月二日ころから数度にわたって山形県庁を訪れ、被控訴人に対し、本件土地を宅地並価格で買収するよう強く要請し続けた。控訴人は、更に、県議会議員に対しても同様の依頼をし、被控訴人に重ねて強く買収を求め、その後、本訴を提起するに至った。
以上認定のとおり、控訴人は、本件土地が県道の敷地の一部であることを知りながら、代物弁済によってこれを取得し、斉藤に依頼するなどして、被控訴人に対して強く買収を求めていることや、<書証番号略>(契約書)には、代物弁済の対象物件として本件土地が明示されておらず、控訴人の代表者が、当初は、他の共同担保として抵当権が設定してあった土地のみを当てにしていて、本件土地については問題ともしていなかった趣旨の供述をしていることなどからすると、控訴人は、被控訴人から、道路敷地である本件土地につき、その買収名下に宅地並の価格で利益を得ようと企図したものではないかとの疑いが生じないわけではない。しかしながら、前認定のとおり、控訴人は、日新観光代表取締役だった光明らに依頼されて、控訴人が連帯保証している日新観光の住宅総合センターに対する債務等を支払うこととし、控訴人が日新観光に対する求償権を保全するために抵当権を設定していた本件土地等を、右抵当権の実行によることなく、代物弁済により取得したまでのことであって、右取得後の本件土地を、控訴人において被控訴人に対し有利に売却して少しでも出金を回収しようとするのも、自然な成り行きであるということができ、しかも、右の抵当権は、光明が、山形県知事に対し、本件土地が県道として使用されていることについて、調査を依頼する一年程前に設定されたものであり、右設定時、控訴人において、本件土地が県道になっていることを知っていたものと認める証拠はなく、このことに、控訴人としては、本件土地が道路になっていても、抵当権を付けていたので、所有権移転は当然だと思っていた旨の控訴会社代表者の供述をもあわせ考えると、控訴人の本件土地取得が不当な利益を獲得する目的のもとになされたものとは認めることができず、他に、控訴人が背信的悪意者であると認めるに足りる証拠はない。
六 以上の次第であるから、控訴人の本件土地所有権確認請求は、理由がある。」
6 同八枚目表一行目の次に、改行のうえ、次のとおり加える。
「第二 控訴人のその余の請求について
道路法所定の手続を経て当初適法に供用開始行為がなされ、道路として使用が開始された以上、当該道路敷地については公物たる道路の構成部分として道路法四条所定の制限が加えられることになり、そして、その制限は、当該道路敷地が公の用に供せられた結果発生するものであって、道路敷地使用の権原に基づくものではないから、その後に至って、道路管理者が対抗要件を欠くため右道路敷地の使用権原をもって後に右敷地の所有権を取得した第三者に対抗しえないことになっても、当該道路の廃止がなされないかぎり、敷地所有権に加えられた右制限は消滅するものではなく、したがって、その後に当該敷地の所有権を取得した右の第三者は、上記制限の加わった状態における土地所有権を取得するにすぎないものと解すべきである(昭和四四年一二月四日最高裁第一小法廷判決・最高裁判例集第二三巻第一二号二四〇七頁参照)。
これを、本件についてみると、前認定のとおり、昭和三〇年ころ、被控訴人が本件土地をその所有者であった光明の代理人精吉から買い取った後に、県道山形宮宿線の拡幅工事がなされ、ついで、山形県知事によって、本件土地を含む県道の区域変更決定及び供用開始がなされるなど、道路法所定の手続を経て適法に供用開始行為がなされ、道路として使用が開始されたのであるから、その道路敷地である本件土地については、公物たる道路の構成部分として、道路法四条所定の制限が加えられることとなったものである。ところで、その後に、控訴人が、前認定のとおり、代物弁済契約により光明から本件土地を取得し、その所有権移転登記を経由したため、対抗要件を欠く被控訴人は、控訴人に対し、本件土地の使用権原をもって対抗しえないことになったのであるが、本件土地に関し、道路の廃止がなされたことの主張立証がないから、道路敷地である本件土地の所有権に加えられた右道路法所定の制限は消滅せず、したがって、控訴人は、右制限の加わった状態における土地所有権を取得したものであるにすぎない。
そうすると、控訴人は、右土地所有権に基づいて、被控訴人に対し県道用地としての使用禁止を求めることはできないというべく、また、控訴人が道路の構成部分たる本件土地につき、その使用収益権の行使を妨げられるについては、法律上の原因が存することになり、控訴人において右使用収益権の行使が妨げられていることを理由として損害賠償を求めることもできないといわなければならない。
以上の次第であるから、控訴人の県道用地使用禁止請求、不当利得返還請求及び不法行為に基づく損害賠償請求は、すべて理由がない。」
二よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官佐藤邦夫 裁判官小野貞夫 裁判官小島浩)
(別紙)物件目録
一 土地
所在 山形市城南町二丁目
(旧所在 山形市香澄町字南追手前)
地番 一六番六〇
地目 宅地
地積 22.13平方メートル
二 土地
所在 右一と同所
(旧所在 右一と同所)
地番 一六番二八二
地目 宅地
地積 5.35平方メートル